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禁断兄妹

第89章 禁断兄妹


「───愛してるわ。夏巳‥‥」


読み終えた萌は
零れる涙に頬を濡らしたまま
便箋を封筒に戻すと
再びKENTAROへ差し出した。

立ち尽くしていたKENTAROは
もう
拒まなかった。

震える指で手紙を受け取ると
胸に抱き
崩れ落ちた。


「‥‥夏巳‥‥っ」


激情を飲み下した声を
振り絞って


「‥‥こんなにも美しい心を持つお前を、愛さずにいられるか‥‥?!
 いられない‥‥愛さずには、いられなかったんだ‥‥っ!!」


熱い息を吐き
雪の上
深く懺悔するように


「‥‥ごめん、夏巳‥‥」


ごめん
夏巳
愛してたのに
お前を愛してたのに


繰り返すKENTAROの姿に
目を伏せ

俺は肩を震わせ泣いている萌を抱き寄せて
腕の中に包むように
抱きしめた。

人を愛するということ
愛する人を失うということ

愛の恐ろしさと素晴らしさ

畏敬の念に打たれ
こうして萌を抱きしめることのできる今を
あまりにも尊く感じる。


「よく読んでくれたな萌‥‥ありがとう‥‥」


顔を上げた萌の涙をそっとぬぐい
いつの間にか雪の降りやんでいた空を見上げた。


母さん

手紙を読ませてもらったよ

人の手に託すしかなかった手紙
複雑な想いの全てを書けた訳ではないでしょう

それでも最大限
あなたの愛は表現されていた

あなたの愛は
KENTAROに伝わった

俺にも
萌にも
伝わった

ありがとう

ありがとう


その時
雲間から差し込んだ光が
一筋
うずくまったままのKENTAROを
白く照らした。

あまりにも神秘的な光景

萌と共に息を呑む。

眩しさに気がつき
顔を上げたKENTAROを
白い光が
抱きしめるように包んだ。


悲しまないで

愛してるわ

笑ってね


言葉ではない
音でもない
何かが聞こえた気がした。


「夏巳‥‥」


強く寄せられた眉の下
KENTAROの瞳から
一粒の涙が
煌めきながら落ちた。


「‥‥ありがとう‥‥夏巳‥‥ありがとう‥‥」


KENTAROは首を垂れ
光に包まれている自分自身を強く抱きしめて
泣き崩れた。

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