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禁断兄妹

第57章 会いたかった


私達を見送りに下まで一緒に降りてきたお母さんの姿が
角を曲がって見えなくなると
私と柊はどちらともなく歩みを止め
顔を見合わせた。


「やっと見れた‥‥」


安堵するような吐息を漏らして
柊が微笑んだ。


「ずっと下向いてるんだもんなあ。萌の顔が見たくて、会いたくてたまらなかったのに‥‥焦らされた」


綻ぶ口元も細くなる瞳も
さっきまでとは違う
甘美な熱を秘めた恋人の顔


「私、も‥‥」


想いが溢れて
うまく喋れない。


「‥‥下向くなよ」


もどかしげな声
顎の下に伸びた指にそっと上向かされて
再び強く結ばれる視線

まるで口づける手前のように首を傾けた柊
前髪の間から覗くその瞳が
熱くて
どこか切なくて


「私も‥‥すごく、会いたかった‥‥」


しんと冷えた暗闇の中
もっと細くなった柊の瞳が
冷たい風に揺らめいて
煌めいて


「すごくすごく、会いたかった‥‥恥ずかしいくらい、柊のことばっかり、考えてた‥‥」


月明かりを映す水面
深い底に目を凝らすように見つめ返すと
風も
時も
止まる気がした。

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