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華のしずく~あなた色に染められて~

第3章 【華のしずく】~夏雷~

 それは、童女の頃に父から聞かされた昔語りである。月から地上に降りた姫は子のない老夫婦の許で育つが、姫のあまりの美しさに次々と求婚した若者たち―帝の求愛さえ―退けて、ついには月に還ってしまう。他愛のないおとぎ話ではあるけれど、珠々はこの話が大好きで、幾度も父にせがんでは話して貰ったものだ。
「何を考えている?」
 傍らに座す良人信成が興味深げな顔で訊ねてきて、珠々は微笑んだ。

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