華のしずく~あなた色に染められて~
第9章 【蜩(ひぐらし)~華のしずく~】
私は十八の年、ご城下で小間物屋を営む男と所帯を持ち、三人の子に恵まれました。珠子の方、いえ貞心院さまにお逢い申しあげたのは、ほんの一度、しかもたったわずかの間の出来事にござりますが、私のような数ならぬ身にとりましては、真に現とは思えぬ夢のような一瞬にございました。とはいえ、あのお方の美しさ、気高さ、慈悲深さは今もあの慈母観音のような微笑と共に私の心に強く刻まれておりまする。
ほんに、遠い昔の話でござります。
(【蜩~華のしずく~】おわり)
ほんに、遠い昔の話でござります。
(【蜩~華のしずく~】おわり)