未成熟の推察
第1章 ミク
シャグラーは初心者向けのスロットと言える。
ビッグとレギュラーの比率、その日の回転数を見ればおおよその設定が分かってしまうのだ。
匠もそれなりに調べた。
しかし調べただけで実践に移したのは今日が初めてだった。
「いけなかったら、あのホームレス殺すかな」
物騒な言葉を吐き、台をチェックしていく。
一つ気になる台を見つけ、タバコでキープしておいた。
これから銀行で金をおろし、その台に費やすつもりだった。
不意に隣に座る人物を見て、匠は停止した。
蛇に睨まれた蛙のように、動けなくなってしまったのだ。
「あら、久しぶりね。匠。会いたかったわ」
匠は会いたくなかった。
すぐさまその場を離れて逃げ出したかった。
しかしそれは叶わない。
周りには黒服が数名待機している。
何人かは知っている、匠の元同僚たちである。
「津田さん。あんた、どうやって俺を」
「私に分からないことなんてないさ。そう身構えるなよ、匠。悲しいだろう」
「俺は、もう仕事はしない」
「仕事をしない人間は、死ぬしかない」
「全うに生きるんだよ。あんたらには関わらないから、もうほっといてくれ」
「そうはいかない。この学校に、入学することはできても退学や卒業はないんだよ、匠」
津田は黒く笑った。
けたたましいパチンコ店で、津田の笑い声だけが、匠の心臓に木霊した。
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