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溺れる愛

第8章 夏休





俊哉の綺麗な鎖骨が目の前に見えて、
背中には回された逞しい腕。



(心臓の音…聞こえてない…よね?)



有り得ない程に早鐘を打つ心臓が、芽依を余計に焦らせる。



「凄く似合ってる…」



頭の上から、俊哉の少し低い声が聞こえてきて
ピクッと身体が小さく震える。



「綺麗…だから…誰にも見せたくない」


『え…?』


(今のは…幻聴…?)


にわかに信じがたい、嬉しい言葉。


そっと顔を上げると、艶っぽい顔をした俊哉と視線が絡まった。


その瞳に吸い込まれそうな感覚になって身動きが取れない。



「…情けねーな、本当。芽依の前では余裕無くなってばっか…」


その表情は真剣で、芽依も目が離せずにじっと見つめ返す。


「本当に綺麗だよ。よく似合ってる…。」


そのまま、少しずつ俊哉の顔が近付いてきて
ぎゅっと目を瞑ると、頬にその熱く柔らかな唇が触れた。



(……これは…夢…?)


そっと目を開くと、俊哉はまた愛おしそうな表情でこっちを見つめていて



「今は…これ以上はやめとく」


と切なそうに笑った。


そして、スッと身体を離されて
またじっと見つめ合う。



「今のは…約束のハグに入る?」


『え…っと……どうでしょう…』


戸惑う芽依に、クスッと笑って


「じゃあ、今のは無しでいい?」


と意地悪く笑って見せた。



当然断れる筈もなく、火照った顔を俯かせて


『…はい』


と答えるので精一杯だった。



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