溺れる愛
第19章 思っていた以上に
田所さんとの打ち合わせは順調に進み
いよいよ改装工事が始まった。
私と菜々子ちゃんは、工事の初日ということで
業者さんに差し入れを持って現場に来ていた。
「あ、おはようございます」
「田所さん!おはようございます!」
『おはようございます』
遅れて現場を見にきた田所さんと挨拶をして
私は腫れた目を隠すためにそっと下を向いて
それ以上の事は話そうと思わなかった。
なんだか田所さんには、何でもお見通しと言う様なオーラを感じて、今は少し気まずいというか…
まぁ私が勝手にそう思ってるだけなんだけど…
工事の様子をしばらく見ながらたまに指示を出したりして菜々子ちゃんと田所さんの談笑を横目に見やりながら
さり気なくその場を離れる。
那津…今、どうしてる…?
ダメ…今は仕事中なのに。
那津が八年ぶりに出版した本を、私は肌身離せず鞄に詰め込んでいる。
それだけでも、那津を近くに感じられたから…。