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エール

第1章 リーヴル

「な、な、中井君...。」


突然の出来事に、私は開いた口がふさがらない。


「ハハッ。大丈夫か、危機一髪だったな。」



何で?何で?


頭の中に?マークがいっぱい飛び交っていて、和希君の発した言葉を拾うことができない。


「混乱してるみたいだな。とりあえず一旦降ろすぞ。」



「あっ。ご、ごめんなさいっ。」



慌てて和希君の腕から退く。



「通りすがったら落ちそうになってたから咄嗟に助けようとして、あんな格好になったんだ。」


「そうだったんですか...。ありがとう......ございました!」



安堵で胸を撫で下ろし、私は深々と礼をした。



感謝の気持ちを込めて...............というのもあるけれど、今更恥ずかしさが込み上げてきて、顔が真っ赤に火照ったのを隠したかった。


「ちょ、顔あげて!」


戸惑ったような和希君の声が聞こえるが、それだけは聞けない。



顔から火照りが冷めるまで礼をして、私はようやく顔をあげた。


「そこまでしなくても良いってのに.........。あ、何の本を取ろうとしてたんだ?...取ってやる。」


「え、そこまでしてもらうと...............。」


悪いから.....................。


「良いって!で、どれ?」



「えと......上から3段目の茶色い本です。」



あまりの迫力に、思わず教えてしまう。


すると、和希君は梯子に手をかけ、スルスルと素早く上っていった。


そして、あっという間に


「はい、取ったよ。」


「あ、ありがとうございます!」


手にそっと本を手渡される。

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