テキストサイズ

LAST SMILE

第10章 知ってしまった痛み






あたしが病室のドアを閉めたあと、
中からドンという鈍い音が聞こえた。






やめよう。


あたしが泣いちゃダメだ。


一番泣きたいのは、本人だもん。






スタジオで一人で、
歌おうと必死になっていたあのときも、



一人で苦しそうだった。




そのあとだって、
何もなかったかのように


明るく荒々しく振舞っていた。






どうして?





そう思うけど、
もうあたしはどうしてなんて聞かないよ。




だって、伝わってきてしまうから。



辛いって、


悲しいって、


本当は声に出して泣きたいんだって、





本人はそう思っていなくても、
体はそう悲鳴をあげていることくらい、



あたしにはわかる。




だから、
あたしは間違っても泣いちゃいけない。




あたしは涙が出るのを必死で堪えて、




時折聞こえる舌打ちや、
いらついた声が洩れるのを静かに聞いていた。




ストーリーメニュー

TOPTOPへ