顧みすれば
第11章 盛夏
このまま墜ちてしまいたい
それでも、この男のなかに堕ちていけない。
男性不信...
私のなかに深く根を張った傷は
そう簡単には私を解放してはくれないようだ。
常務の体が強張った。
私の体を離して顔を覗きこむ
「なぜ泣く」
私の双眼から大粒の涙が溢れ落ちている
「ごめんなさい」
「謝ってほしい訳じゃない。
なぜ泣いているんだ?」
「だって、直哉さんが探しているのは
同じ名前の違う女性。
私じゃない。
それなのにこんなキスをするなんて
心がくるしいです」
私はズルい。
自分の心を隠して直哉さんのせいにした。
直哉さんは
ハッとして
私の体を離した。
直哉さんは何も言わなかった。
立ち去る私をただ無言で見つめているだけだった。