妖魔滅伝・団右衛門!
第10章 さよなら団右衛門
七尺は超えた半透明な壁が、団右衛門の前に立ちはだかる。一見街道には何も障害などないように見えるが、あと一歩足を踏み出せば頭をぶつけ痛い思いをしてしまう。これは妖怪・ぬりかべ。彼は鬼も倒す退魔師が相手でも、変わらず道を塞いでいた。
「……なんなんだよ、あんたは!」
団右衛門は拳を握り締め、ぬりかべに怒鳴りつける。実はこの妨害、一度目ではないのだ。何度払っても、同じ妖魔がしつこく団右衛門の邪魔をしていた。
「いい加減にしないと、本気で払ってやるぞ! オレは強いんだからな、死にたくなけりゃ邪魔するな!」
「ぬ、ぬー……」
ぬりかべの妨害で足を取られ、団右衛門の歩みは遅くなっていた。日が傾き空は赤くなり始めたのに、まだ街の外れである。しかし、ぬりかべからはさして悪意を感じないのだ。相手に襲うつもりがないのなら、攻撃してしまえば団右衛門が加害者である。腹が立つと言っても、容易に手は出せなかった。
「ぬ、ぬー!」
するとぬりかべは、平たい身体をふるふる揺らしながら何かを訴え始める。
「ぬー、ぬ、ぬ!」
「ふんふん」
「ぬ、ぬ、ぬ!」
「へぇ、ほうほう」