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闇夜に輝く

第1章 一人ぼっちの誕生日


その境内はなぜか落ち着いた。

間もなく初夏が訪れる5月の終わりの夕方、繁華街の喧騒とは無縁の住宅街にぽつんと佇む神社。
小さい神社の割には長い石畳みの参拝道。
その先に人に忘れられたようにある境内。
裏手には少しだけスペースがあり、木でできたベンチが一つだけ置いてある。
海斗はそこに座りただ景色を眺める。
目の前の紫陽花が静けさの中でようやく花を咲かせはじめていた。

筑波海斗。今日で20歳になった。

高校時代はそれなりに友達もいたが、いまは全く連絡を取っていない。
誕生日を祝ってくれるのはこの淡い紫色の花だけ。

「にゃぁ~」

そうだ、お前もいたな。最近、出てこないからすっかり忘れていた。
いつの間に現れた猫がとなりに座り、海斗の手に鼻先をこすり付けてじゃれてくる。
猫をなでながらつぶやく。

「傷はだいぶよくなったみだいだな。もういじめられてないのか?」

その猫の首には噛みつかれた様な傷跡がかろうじて見える。
猫はじっと海斗を見つめた後、くつろぐように寝転んで、くるくると喉をならしている。

「さて、そろそろ行くかな」

海斗は重い腰を上げ、夜の住人へと戻る。そして今日も一日が始まる。


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