闇夜に輝く
第46章 黒服と担当キャスト
そんな4月初旬、珍しくボーイ達と同じ時間に出勤してきた増田さんに海斗は呼ばれた。
増田さんがいつものVIP席に座り、その前の丸イスに海斗が腰掛ける。
「ちょっと困った事が起きてなぁ」
増田さんはそう言ったまま、珍しく黙り込む。
海斗は目の前のお茶を一口飲んで次の言葉を待った。
「海斗、お前に今月支給する給料がいくらか知ってるか?」
「えっと、大体は計算できますけど…」
予想外の問いかけに怪訝な顔で海斗は応えた。
すると珍しく増田さんが言い淀みながら話しを続ける。
「そうか。えーとな、今月の海斗の給与がちょっと高すぎるんだよ。先月のお前の担当キャストが頑張りすぎた」
「あー、はい。成績のバランスがおかしな事になりましたよね」
「そうなんだよ。理子の成績に目を奪われてたけど、お前の担当キャストが3人も指名売上150万を超えてたんだ。事務長と執行部がお前の給与計算をしたら凄いことになってた。お前の給与60万超えてんぞ」
「まぁ、でも規定通り…なんですよね?」
「そうなんだけどな、ぶっちゃけお前の役職って副主任だろ。だけど、支給される給与が他店のマネージャーと同じかそれ以上なんだよ。他店の副主任と比べると2倍くらいなんだ。しかもな…、…坂東より高いんだ」
「えっ?そうなんですか?」
海斗は他店の事をあまり知らない。
また、この業界に入って、ニューアクトレスしか経験していない。
一般的に60万が高い給与な事は海斗でも分かる。
だけどこの業界は社会的保障が何もない。
身体が壊れて休んだり、店の売り上げや担当キャストの成績が落ち込めばダイレクトに自分に返ってくる。
それ故に黒服やキャストは高成績を目指す。
海斗はこの世界が学歴や年齢に左右されない場所だと認識している。
なので60万という給与に驚く事はなかった。
けれども坂東さんよりも高い給与になってしまうことには驚いた。