ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第3章 マドンナ・ブルー ②
先輩から遅れること数時間後、僕もようやく上がりの時間となって、人影が疎らになった夜道を自転車を押しながらとぼとぼ歩いた。
少し歩くと、街灯が極端に少なくなり、
薄暗い、と言うよりはほぼ真っ暗な人気のない公園の脇に差し掛かる。
歩道からは鬱蒼とした木々で遮られていて、公園内の様子を伺い知ることは難しく、
不審者を見たとか見ないとか、という噂もよく聞いていた。
僕はそれまで押して歩いていた自転車に跨がりペダルに足をかけた。
その時だった。
突然、背後から羽交い締めにされ口元を塞がれた。
その拍子に、僕の手から掴みかけたハンドルが離れ落ち、
自転車は大きな音を立て地面に叩きつけられた。
驚きのあまり声も出せずにいると、
丁寧だけど、耳元で低くて冷たい声が響く。
「…騒がないで。大人しくしてて下さい。」
だっ、誰?
カチッカチッという音と共に、首筋に当たる冷たくて硬い感触に背筋が凍りついた。
カッターナイフ…!?
「そのまま大人しくしててくれたら手荒なことはしません。」
声の主の言うことを信じた訳でも、
抵抗することを諦めた訳でもなかったけど、
突然のことで頭が回らなかったのと恐怖心からとで、
抵抗する気力も湧かないまま、僕はさらに暗い場所へと声の主に引き摺られていった。