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20年 あなたと歩いた時間

第3章 17歳

初めてキスをしてから、私と流星は
ぎこちなさを隠せずにはいられなかった。
会うたびにあの場面がフラッシュバックし
ドキドキしてまともに話せなかった。
でも、それすらも幸せだった。
秘密を共有することで、お互いがお互いの
「特別」になったような気がしていた。
流星のバイトがない放課後は、
たいてい一緒に過ごした。
それまでとは何も変わらないのに、
キスをしたという事実が二人の間にあるだけで
世界は違って見えた。そのくらい、私には
流星しか見えていなかった。
公園で、イヤフォンを片方ずつ分けて
音楽を聴きながら、手をつないだ。
図書館で、勉強しながら机の下で
脚を絡ませあった。
いつものアイスクリーム屋で、
アイスを食べさせあいっこした。
クリスマスには、少し遠出をして
凍えそうになりながら、
山頂からイルミネーションに埋まる街を
見つめた。
少しずつ寒さが和らいで、
ゆっくりと日が暮れ始めると、
流星の自転車の後ろで、背中に耳を当てて
流星の音を聴いた。
春が来て二年生に進級した。
桜の花吹雪の下で、二人で手をつないで
昼寝をした。私は、目を閉じるふりをして
ずっと流星の寝顔を見ていた。
夏。制服のまま、ひざまで川に入って
掛け合った水しぶきはキラキラしていた。
流星は十七歳になった。
再び木々の色は紅く染まり、
やがてそれらが全部落ちる冬が来ると、
今度は私が十七歳になった。
流星と食べたケーキは、
食べなれた老舗の店のものなのに、
今までで一番美味しいと思った。
流星と経験したこと全部を、
ひとつひとつ記憶に刻んだ。
その笑顔も、声も、手の温もりも、
くちびるの柔らかさも。
私は流星をひとつずつ知るたびに、
もっと、もっとと貪欲になった。
でも、なぜか流星といる未来は
見えなかった。幸せを感じるたびに、
行かないで、と心が叫んだ。

「のぞみ」
「ん?」

ふっ、と刺すように冷たかった空気が
緩んだ。その瞬間、冬の終わりを知る。
西の空がオレンジ色と紫色に
染まり始めたころ、流星が言った。

「おれ、卒業したらこの街出るかも」

そう言い、立ち上がって流星は走り出した。
全力で、風を切って。
何かを振り切るように。
そして私にも、事態を飲み込んで
頭を整理する時間をくれたのだ。

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