秘密の兄妹
第14章 罪と罰
「…中学のとき、紫織、よく言ってたんです。高校に行ったらマネージャーとかしてみたいなって……
だから私、じゃあすればいいじゃないって勧めたんです。
そしたら紫織は【したいけどできない】って首を横に振るんです。」
「……何で?」
「私も不思議に思って、どうして?って聞いたら、【灯りのついている家で、学校から帰ってくるお兄ちゃんのこと迎えてあげたいから】って笑うんです…。
【マネージャーになんかになったら、どうしても家に帰るのが遅くなって、お兄ちゃんを真っ暗な家に帰らせることになっちゃう……。それだけは嫌……】って言って、紫織、悲しそうに笑うんです。」
「…………」
俺は由香のその言葉を聞いて、黙った。
「…紫織は知らないけど、私、高瀬先輩が昔からけっこういろんな女の人と遊んでるの知ってます。
それで帰りが遅くなってるのも……。
でも、あの子、中学の時からずっと先輩の帰り、家で一人っきりで待ってるんです。
家に灯りをつけて、ごはん作って……一人っきりでずっと先輩の帰り、待ってたんです……」
由香は少し涙目になって俺に言う。
「高瀬先輩、灯りのついた家に帰るのも、あったかいごはん作ってもらうのも、掃除・洗濯してもらえるのも当たり前だと思ってませんか?
普通に考えて、中学生の時から、それを当然のようにしている紫織ってすごいと思いません?
紫織、スポーツ得意だから部活だって入りたかっただろうし、学校帰りに友達とも遊びたいはずなのに……
あの子、それを全部断って、いつも真っ直ぐに家に帰って行くんです。
全部、高瀬先輩のために……」
「……俺のため……」
「【両親が家にいないことで、お兄ちゃんには寂しい想いしてほしくない、普通に暮らしてほしい】って、あの子、中学・高校生活のすべてを高瀬先輩のために犠牲にしているんです。」
「…………」
「だから私、紫織に大学受験を勧めてるんです。高瀬先輩と違う大学に行けば、少しは紫織の世界が広がって、紫織が兄離れできるんじゃないかと思って……」
「大学に行ってまで、真っ直ぐ家に帰ってたら、さすがに紫織、可哀想すぎます。
高瀬先輩とは違う大学に行って、サークルとかに入って、紫織に大学生活くらいは楽しんでもらいたいから……」