春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第14章 救いの扉
.。.:* side 遼 *:.。.。.:**:.。.。.:**:.。.。.:*
“ 遼くん
主人も私も、もちろん雪斗も、貴方が大好きよ。
でも、お互い次に進まなきゃ ”
……毎年、結婚記念日を迎える度に
桜の母親から、手紙と共に送られてくる離婚届。
綺麗な字で綴られた、薄紫色の便箋だけ引き出しにしまって
活字が並んだ無機質な用紙を、灰皿に入れて火を付ける。
“ 遼くんには、遼くんの人生がある。
……貴方は、生きているのよ ”
彼女の両親から、そう突き放されてしまっては
手元に残った、数少ない写真と
左手の指輪くらいしか、目に見える印が無くなってしまう。
だから
会社で部長と交わす架空の会話や
愛妻家って囃し立てる、同僚達の突っ込みを聞くだけで
……心が、安心する。
絶対に忘れる事は無いし
今でも、彼女の笑顔は俺の脳裏に焼きついているけど
……それでも
夫婦となり過ごした1年間は、短すぎて
心に灯した火が、またひとつ消えていってしまう
……それが
堪らなく、怖い。