春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第8章 新しい一歩
東京の都心部で、環状運転を行う在来線。
地下鉄各線へ接続している、指折りの主要駅から徒歩圏内
閑静な住宅地の一角に、ユキの実家はあった。
「ねぇ、やっぱり迷惑じゃない……?」
既に立派な門構えの前に来ちゃってるから、今更な発言だけど
やっぱり私のマンションの方が良かったんじゃないかな。
「平気。家族誰もいないから」
「……え?」
ベルトに付けられたキーチェーンを手に取って、ユキは続ける。
「俺だけ置いて、旅行行ってるんだ」
「……旅行?」
「今回は地中海クルーズなんちゃらって言ってたから
ゴールデンウィークまで帰って来ないんじゃない」
……ち、地中海……
都内一等地の戸建てといい、この時期の海外旅行といい
なんだかそれだけで色々想像出来てしまう。
美大は学費が高いから、お金持ちが多いのも事実で
ほとんど大学に行っていないと言っていたユキも、そっちのタイプだったってことかしら……