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アシンメトリーと君

第2章 日常

「―――掃除当番することになったので送れます・・・っと・・・」


春も終わりがさしかかる四月下旬。

当番の人がちゃんと掃除していないのか、散らばった桜が至るところに見えるこの場所は学校で落ち着くには丁度いい環境だ。

ぽつぽつと並べられたベンチの一つに座る僕は、大きく息を吸うとはぁあぁ・・・と深くため息をついた。


「断れば良かったなぁ。
バイトだったのに・・・」


“送信完了”という表示を確認すると、携帯をブレザーのポケットに無造作に突っ込む。

二年生へと進級をしてからますます存在が地味になった僕は、昔よりもこういうことが多くなってきて散々している。

断ろうとしても、どうしても相手の顔色を窺ってびくびくしてしまい、後から散々後悔するという性格が一つの要因だ。


「せめて平等に扱って貰えたら・・・」


僕が窮屈でいなくてもいい場所といったら、家とバイト先だけ。

家はやはり安心するし、言いたいことも言える。
それにバイト先である場所は、僕の好きな本が沢山ある。

バイト先は、学校近くの駅を二つ越したところにある、“HaNa”という書店だ。

そこの店長である華さんは、優しくて朗らかで明るい人で、僕にバイトを誘ってくれた張本人だ。

僕に安心できる場所を作ってくれた。
好きな本の近くに居られるのは何よりほっとする。

その唯一の場所に居られる時間が減るのだ。

僕にとっては死活問題に近い。


「今度こそは断れればいいな・・・」


小説をぎゅと抱きしめる。
そんな淡い願望をうっすら浮かばせ、でも無理だろうなと即座にやんわり否定したのだった。

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