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アシンメトリーと君

第2章 日常

「華さーん。
僕、レジに回ります」


レジ近くで本の整理をしていた僕は、店の奥で本のフィルム包装をする華さんに声をかける。


「そうだね。
じゃあ憂くん、レジお願いします。

他のバイトさん、今日は休みだから憂くんに頼ることになるけど大丈夫?」

「はい、大丈夫ですよ」


そう言うと、すぐさま行動に移す。


「お待たせしました。
ではお会計しますね」


そう言うと、レジ前にいた女子高校生のお客さんに微笑む。

途端に女性客全員から


「きゃ――――!!」


と黄色い悲鳴が上がった。


「・・・!?」


いきなり大音量の悲鳴が上がり、目を丸くする。

何事かと思うが、ふと我に返りこれがいつものことなのだと思い出す。

毎回こんな感じではあるけれど、今日も凄いな・・・と慣れない心臓をドキドキさせながらお客さんから本を受け取った。


「こちらブックカバーはお付けいたしますか?」

「は、はい!お願いします!」


ドキドキはしていてもいつも通りの接客は忘れない。
バイトをして学んだのは笑顔を絶やさず、どんなお客さんでも丁寧に接客することだ。

平常心、平常心と数回繰り返しながら上手く本をカバーで包み、袋に入れて笑顔で受け取った金額を確認する。

すると


「あ、あの!・・・下のお名前を教えていただけませんか!」


突然の声に顔を上げる。
目の前に映るのは赤面した顔と、胸元でプルプルと震える手。


「名前、ですか・・・?」

「はい!」


な、名前か~・・・。
困ったな・・・。

訊かれたと同時に瞬時に考える。

胸元のネームは苗字しか書かれていないから、勿論下の名前は分からない。

ここで名前を言うと、今のお客さんだけではなく後ろに待機している女性客にも漏れてしまうのでは。
本名を言ってしまったら後々何かあった時に困ってしまうだろうか。
あるとは限らないけど・・・。

でも初対面の人たちにまるまるフルネームを知られてしまうのは気が引けてしまう――。

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