エスキス アムール
第40章 親友と部下
「はるくん、はーるくん」
「…んー、」
木更津さんの指が、
大野さんの唇を這ったとき、
ふらっと大野さんの瞼が少しだけ開いた。
「はるくん、風引いちゃうからベッドに行こう?」
「ベッド…」
「そう。歩ける…?」
「きさらづ…」
一言だけ漏らして、
木更津さんに手を伸ばす大野さん。
多分抱っこしてと言っているのだと思う。
職場とプライベートでお酒が入っているとはいえ、こんなに違うものだろうか。
こういうところ、木更津さんは堪らないんだろうな。
自分だけが知れる特権みたいなやつ。
人のラブラブシーンを覗きながら思わずニヤついてしまった。
「はるくん、抱っこは無理だよ」
「…じゃあ…こっち…」
「ここで寝るの?
待ってて。タオルケット持ってくるから。」
広いソファだから、
詰めれば何とか寝れそうだけど、
抱っこして連れて行ってもらえないと悟ると、大野さんは端の方に詰めてスペースを開けた。
そこにタオルケットを持ってきた木更津さんが体を滑り込ませる。
その身体に抱きつくと、
大野さんは木更津さんの胸に頭を擦り付けて動かなくなった。
木更津さんは、大野さんの額にキスを落としておやすみと言うと、彼の背中に腕を回して、空いている方の手でリモコンを持ち電気を消した。
いきなり視界が真っ暗になって、もう二人のことも見えなくなってしまった。
もう、見られないのかと残念に思った俺は、相当酔っているのだろうか。
そういえば、大野さんは誰かと付き合っても、全て女性から振られて終わっていると、高橋さんが言っていたのを思い出した。
それは、彼の性格に難ありと言うわけではなくて、いろいろと事情があるらしい。
前の彼女、もったいないことしたな。と思う。
こんなに可愛い人、放って置ける人がいるのだろうか。
木更津さんは振らないで欲しいな。
二人はずっと続いて欲しい。
こんなことを思うなんて、やっぱり酔ってるみたいだ。
静かに扉を閉めて布団に潜り込むと、
先ほどのことを思い出してニヤつきながら、眠りについた。