エスキス アムール
第41章 思わぬ再会
「わたし…わ、たし…っ」
「辛かったね、ごめんね…。」
「うぅ…う…わたし…」
「ごめんね…、本当に」
違う違うと首を振るのに、涙が溢れて言葉にならず、
その間、大野さんは自分が悪いと謝り続けた。
なんで、あんなことをしてしまったのだろう。
分かってはいたことだったけど、やはり、大野さんに会ったら、あの頃の気持ちを思い出すのと同時に、後悔をした。
あんなことをしなければ今頃は…
もう、あの頃には戻れない。
その現実が、彼の見せてくれない笑顔や、触れてこない手、彼の行動全てが物語っていた。
涙を流しながら、彼を見つめる。
止めようと思うのに、彼との思い出と現実とのギャップを感じれば感じるほど、涙は止まらなかった。
「はるかちゃん…」
大野さんは立ち上がって私の隣に座った。
そして私に手を伸ばす。
抱きしめて、
指で涙を拭ってキスを落とす。
昔だったらしてくれたことだ。
だけど今は当たり前にそんなことはない。
その伸ばした手は空中を彷徨い、ティッシュの箱へと伸びると私に差し出した。
「ごめんね、はるかちゃん」
そのごめんねは、先ほど謝った理由とは少し違う意味合いでも取れた。
私には今は抱きしめてあげられないんだ、ごめんねと聞こえた。
もう、恋人がいるのかもしれない。
いつまでも迷惑なんかかけられない。
必死に出してくれたティッシュで涙を拭った。
そして一生懸命微笑む。
自分の気持ちと反した行動をするのは得意だったはずだ。
その笑顔を見て、彼も笑った。
…外向きの笑顔で。
「私、精一杯描かせてもらいます」
「…うん、ありがとう」
「頑張ります」
頑張ります。
貴方への償いだと思って最高の絵を描きます。
大好きな胸に飛び込めたあのときとは違う。
大好きなその唇に、キスができたときとは違う。
その綺麗な指先に、指を絡めることさえも許されない。
大野さんと久しぶりに会って、
それが現実なのだと実感した時、
また、ひとつ、涙が零れ、
やはりまだ私はこの人のことが好きで好きで堪らないのだと知った。