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エスキス アムール

第43章 だから言ったのに。

【波留side】






「今日なにかあんの?」


要の言葉で、皆が一斉に俺のほうを向いた。
その視線で、要が俺に声をかけたことに気が付いて、一瞬固まる。



「な、なんで?」

「さっきから時間気にしてるみたいだから。」




俺って、なんでそんなに分かりやすいのだろう。
あと15分で就業時間だ。


あと少しだと思ったら、あまり集中できなくて時計ばかり気にしていた。



今日は仕事が終わったら、木更津に食事に行こうと誘われていた。
たまには外食もいいだろうと。

木更津との外食は本当に久しぶりで、日本にいた時に観月製薬の元秘書と会った時の食事に行った以来、彼とは外食はしていなかった。



俺たちにとって、外食も大事なデートの内に入る。
お互いに忙しい職柄についてしまっているものだから、時間も取れず、ニューヨーク観光にも行けていない。


例えば、映画をみたり美術館に行ってみたり、公園で散策したり、
一般的なデートと呼ばれるものはしたことがなかった。


だから、二人きりで食事にいく。

それだけでも、俺たちにとっては大きな意味を持つ。



仕事に一度集中してしまえば、就業時間なんて一気に過ぎていってしまう。

特別なことだからこそ、待ち合わせ時間になるべく遅れたくない。

自分の習性は十分理解しているつもりだから、15分前から、時計ばかり気にしていた。



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