エスキス アムール
第45章 困惑と介抱
「はい、荷物。
財布は…ダメ。着替えだけね」
そう言って渡される大きめのバッグに入った洋服。
わけがわからなくて息を切らしながら黙って見つめると、木更津は微笑んだ。
「どうしたの?洋服がほしかったんでしょ?」
「……ち、ちがっ」
「じゃあどうしてここに来たの?」
「…なんで、こんなこと…っ」
木更津が俺の頬に触れる。
何かを拭われて、初めて自分が涙を流していることに気がついた。
汗なのか、涙なのか、もうぐちゃぐちゃでわけがわからない。
「はっきりしない波留くんは嫌いだよ」
冷たくそう言い放たれた言葉が心の奥深くまで突き刺さった。
嫌い。
木更津が発するその言葉が俺にとってどれだけ応えるのか、彼は知っているのだろうか。
「…なんで…」
はっきりしない。
そう言われて思い浮かぶのは彼女しいかいない。
もしかして、要との会話を木更津は聞いていたのだろうか。
「じゃあね、」
「や、やだ!やだ!木更津!」
捨てないで。
その一言を言おうとしたとき、要が言った『あの人に甘えているだけだ』という言葉が頭の中に蘇った。
捨てられたくないから、木更津に甘えてるだけなのか。
一度捨てられた彼女のところに戻るのを恐れて、木更津を頼っているのか。
木更津が好きな気持ちは揺るぎないはずなのに、彼女の存在が俺を惑わせ苦しめる。
懇願することも叶わず閉まる扉。
ガチャリと鍵が湿られた音がして、静かな空間の中に、俺は荷物と一緒に放り出された。