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エスキス アムール

第46章 ロンリスト

【はるかside】






「あ、おかえり」

「ち、ちょっと!
じっとしててくださいって言ったじゃないですか!!」




大野さんが家を飛び出した後、死んだような顔をして荷物を持って帰ってきた。

なんでも、ルームシェアをしている人に暫く家を空けてくれと頼まれて、半ば強制的に追い出され、お金も取りに行かせてもらえなかったと説明された。


財布すらないみたいだったから半分は本当として、そのルームシェアのくだりは嘘だと思っている。

嘘じゃなきゃ、大野さんがどうしてうちの前で眠っていたのかも、どうしてあんなに疲れていたのかも説明出来ないだろう。

私が疑問に思っているところは、そのルームシェアをしているという相手。
………本当にルームシェアだろうか。
ただの同居人という関係なのだろうか。


そもそも、男が女かもわからない。


けれど、大野さんは何も話すつもりは無いようで、
問い質すことはできなかった。

問い質すのなら、時計の裏にあるイニシャルも聞きたいところだけど、隠してしまったことがばれてしまう。

悪気はなかったものの、一度隠してしまってから言い出せなくなってしまった。



彼が起きる直前に呟いた、木更津という人のイニシャルだろうか。だけどそれにしては、大野さんの波留のHなのだとしたら、木更津はどう考えても苗字だし、名前と苗字のイニシャルというのはおかしい。


ということは、H.Kという人の時計なのか、大野さんと、木更津さんという人以外の名前か、木更津さんの下の名前がKか、というどれかになるはずだ。


だけど、そんなことを考えても大野さんに聞かなければ結局はわからないことだ。



大野さんには大事をとって、目が覚めてから何日かは休むように私が言った。
じっとしていてくださいと言ったのに、それがどうも苦手なようで、最近ずっと料理を作ってくれている。




「暇なんだもん」


そう言って並べられる料理はどれも美味しそうで、あの頃を思い出した。






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