すべてはあの日から
第8章 対面
「…でも、これも大切なことなんだと思うから…」
「……どうしてそう思うんだい?」
「日本や世界の、経済や産業を統べる人がどういう考えや振舞いをするのか、
直接吟味することで、この人は信頼に値するかどうかを見極められるから…」
「……なるほど…」
興味深い意見だね、と感心する様子のおじさま。
すっと立ち上がると、「是非ともまたお話したいね」と去っていった。
……結局誰だったのだろう…
名前くらいは訊いておけばよかった、と後悔しつつ
そっとシャンパンを口に含む。
…シャンパンならティラミスとか…
うーん、チーズとの相性が良いから合うと思うんだけど…
と、スイーツに悶々としていると
「……真央さん?」
声のする方に顔を向け、返事さえできずに絶句した。
サラサラとした痛みのない黒髪の20代後半の男性、
骨張っているのに細くしなやかな指、
目尻の下の泣き黒子、
切れ長な瞳に見つめられ、一瞬息が止まった。