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Gentle rain

第7章 心と体

俺は一言「ああ。」と返事をすると、拍手が鳴り止むを待った。

作戦だった。

ここですぐに拍手を止めさせ、森川社長の件を言えば、専務や森川社長の言いなりだと思われるだろう。

あくまでそれを決めるのは、俺だと役員達にも、森川社長達にも、知らしめたかった。


一番最初に、森川社長の手が止まった。

次に菜摘さんの手が止まる。

それを見た専務の手が、拍手の輪から離れた。

専務は心配そうに、ちらっとだけ、俺を見た。


それを合図に、この会合に参加している人の手が、拍手を少しずつ止めていった。

「ここでもう一方。今回の売上向上に、ご尽力を頂いた方を紹介したいと思います。」

俺はわざと立ち上がると、森川社長の後ろに回り、社長の肩にそっと右手を置いた。

「こちらの森川社長でいらっしゃいます。」

するとまた、拍手の嵐が巻きあがる。

満更でもない森川社長は、ゆっくりと立ち上がると、「ありがとう。」と一言口にすると、俺に深々と頭を下げた。


自分はただ、これから伸びるであろう会社の、手助けをしただけ。

それを大題的に紹介してくれて、感謝しますと言わんばかりの表情だ。


よくやる。

森川社長は、策士だと思った。

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