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同じ空の下で

第12章 非日常

住み慣れた家を離れる日

自分の身の回りの物


その他に両親と兄の少しの服

そして皆のお茶碗とお箸を持っていった

家にあるもの全てに思い出があって大切で
全部を持っていきたくて


そのままそこにいたい気持ちと

そこは変わらないのに確実に失ってしまったものが辛かった


どうしてお茶碗とお箸だったのかはわからないけど

段ボール二箱分って言われてたから

その中に入るだけのものを詰め込んだ


母のエプロンと父の車の鍵とネクタイ

兄の携帯電話と高校時代の部活のユニフォーム

母が買ってくれた兄と色違いのカップ

アルバムと撮りためたビデオテープ

それから

母が大切にしてた父からのプレゼントのネックレス

兄が母の誕生日に贈ったモザイクの縁取りの鏡





遺影と位牌は自分の荷物の一番上にのせた



その時の段ボールは時を経て

何度かの引っ越しの度に新しい箱になって

そして今一つの衣装ケースとなって

クローゼットの一番奥にしまわれてる



最近ではよほどの事がない限り
開けることはしない



一人になってしばらくは
その箱を開けて家族を感じて
安心したり
余計に悲しくなったりしていたけど


今は…

そこを拠り所にしてしまうと
闇の中に入ってしまう気がして

自分に楽しいこと、嬉しいことがあったときだけ

心が落ち着いて大丈夫なときだけ

風を通す事を目的として、開けてみる



また新しい場所で生活を始める私は

大切な衣装ケースと共に引っ越しをする


唯一、家族があったことの証

目に見えて触れられるもの



私だけの帰る場所


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