テキストサイズ

Tears ~緑のしずく~

第10章 別離~めぐり逢いの反対側~

〝あいつが妊娠したんだ〟
 そんな台詞はできれば
 聞きたくなかった

 だから
 もう何も言わずに
 このまま 黙って行って

 あなたの哀しそうな顔を見るのも
 今更な言い訳を耳にするのも
 私 耐えられそうにない

 いつか
 あなたのことが本当に想い出に変わったら
 私たちが出逢ったあの小さな喫茶店に行ってみようと思う

 今はもう営業していない
誰もいない建物の入り口に
 ひそかに刻み込んだ名前

 ATSUSHI
   &MAI

 私たちの絆の証(あかし)を
 手のひらで撫でて
 気の済むだけ泣いて
 あなたとの想い出を
 涙とともに流し尽くしてしまったら

 私の手で私とあなたの名前を
消すの

 


 
 


 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ