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青い桜は何を願う

第8章 懺悔は桜風にさらわれて


 怒濤の週末から、一週間が過ぎた。

 朝、さくらは目覚まし時計が鳴るより先に、目が覚めた。

 起き抜けて、真っ先に窓の前に歩み寄る。

 サーモンピンクの遮光カーテンのかかった窓に、ワンピースが吊るしてあった。一週間前、このはが貸してくれたものだ。
 生成のリネンに青い小花がプリントされた春先用の外出着は、このはらしい軽やかなデザインに仕立ててあった。腰から膝丈にかけて広がるスカートの裾から、フロッキーのドット柄があしらわれたメッシュのフリルが覗いている。スクエアカットの胸元に、小さな青いリボンのコサージュの花が咲いていた。

 さくらは、このワンピースを持て余していた。

 このははあの昼休みの後も、ことあるごとに、さくらを気にかけてくれていた。
 昨夜もこのはからメールをもらった。今日の待ち合わせ時間と場所が、指定してあった。

 美術展のチケットを捨ててしまう気にはなれない。それに、ワンピースを返せる最後のチャンスだ。

 だが、さくらは今日またまともに顔を合わせれば、今度こそこのはを忘れられなくなるだろう。

 このはに会えば満たされる。が、その満ち潮は苦しくて狂おしくて、いつだって正気を脅かされる。

 さくらはこのはを避けていた間も、家庭科室では相も変わらず、愛おしい声を聞いていた。廊下や校庭で時々視線を感じたかと思うと、可憐な妖精の姿が見えた。

 苦しかった。さくらは早くこのはを忘れたかった。反面、もう一度このはと向き合いたかった。

 今日、四月一日は、さくらの誕生日であって、リーシェの誕生日でもあった。幾千もの年月を遡った前世の時代にリーシェがカイルと約束した、まさにその日だ。

 今一度、さくらはチケットの裏面を向けて、詳細を確かめてみた。

 このはとの待ち合わせ時間は午後二時だ。

 さくらが、否、リーシェがカイルと約束したのは正午だ。

 このはは、約束の場所へ呼び寄せようとしてくれたのか?

 さくらは、やはり一度退けた可能性を打ち消せなかった。

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