青い桜は何を願う
第6章 心はいびつにすれ違う
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夢を見ていた。
氷華にいた頃の夢だ。
魂の奥底に仕舞い込んで蓋を閉めて、壊れないよう大切に、護り続けてきた。
さくらはリーシェの幸せな記憶をひとときだけ取り出して、束の間の安息を貪っていた。
カイルに、逢いたい。
カイルに逢えるまでに、元気にならなくては。
最後に交わした約束を、二人の思い出がたくさん詰まったあの海で、再会の約束を果たしたい。十六才の誕生日は、もうすぐだ。
意識がだんだん冴えてきた。
さくらは、深い眠りから覚めた。
起き抜けならではの少しの気だるさはともかく、目覚めは快かった。
どれくらい眠っていたのだろう。
そしてさくらは道端で倒れたはずなのに、今まで随分、寝心地良かった。ここは、どこだ?
さくらは上体を起こして、辺りを見回す。
見知らぬ部屋だ。
さくらは一抹の不安を覚えながら、意識を失う間際のことを、今一度、思い起こす。
怖ろしげな男達の影に迫られた。声も上げられなくなった瞬間、身体が誰かの腕の中に包まれた。
…──リーシェ様!
その声は、泣きそうで、優しくて、懐かしかった。
──リーシェ様。
それは久しく呼ばれた名前だった。
さくらは右手首を確かめる。
花の痣は、仄かな青い色素の混じった、氷の如く白さをしていた。身体の熱も引いている。
まるで何事も起きなかったようだ。
いくらミゼレッタ家の人間でも、一週間は風邪に似た症状に苦しむはずなのに、不可解だ。
さくらは、ふかふかのベッドから、改めて部屋を一望する。
きっちり整頓されている、生活感より装飾性の強い部屋だ。まるで雑誌から抜け出てきたみたいだ。
突然、ドアの開く音がした。
「え、あっあのっ?!こ、このは先──」
「気が付いたんだ。良かったぁ」
このはが朗らかに笑った。ただし、どこかわざとらしい。
「このは先輩が、私をここまで?……有り難うございますわ」
訊きたいことは沢山あるのに、訊いてはならない気がしていた。
「このは先輩、私……」
その時、廊下から、電話のベルが響いてきた。