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小春食堂【ARS】

第4章 小春ちゃん【翔】

「女将さん」

俺がそう呼ぶと、女性は振り返り、ふふ…と笑った。

「女将さんって、私のこと?
私は確かにここの店主やけど、女将さんなんて立派なもんやあらへん。
みんな、“小春ちゃん”って呼ぶわ。」


その時、小上がりの夫婦が「小春ちゃん、ごちそうさん」と声をかけた。
“小春ちゃん”は、「はぁい」と応えて夫婦のお勘定を済ませ、玄関まで見送った。


玄関の引き戸をしめると、“小春ちゃん”は俺に向き直った。


「お兄さん、お名前は?」

「さ、櫻井です。」

「櫻井さんか。はんなりとしたいい名字やね。」

「ありがとうございます。
あの、小春…さん。
料理、とてもうまかったです。」


さすがに、どう見ても年上で、しかも今日初めて会った女性に“ちゃん”付けはできない。


「そう、よかった。
おおきに。」

「あの、それで…
この店を、ブログで紹介したいんですけど…」


小春さんの顔から、一瞬笑顔が消えた。


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