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小春食堂【ARS】

第34章 再会【智】

「小春さんは、いつから東京に?」

「10年くらい前かな。」

「また、どうして東京に?」

その質問には小春さんは答えなかった。

食堂の店内にかけられた鉛筆スケッチは、約束の日の最終日に俺が渡したものだった。

satoshi、とサインされていたその絵は日焼けしていて、あの時からの時間の流れを感じさせていた。

「あのさ、あの絵、外してくんねぇかな。」

俺が言うと小春さんは少し驚いた様子だったが、黙って絵を外した。

「絵は大野さんに返した方がいいですか?」

小春さんは聞いたが、俺は首を横に振った。

絵の入った額縁を外した壁は、そこだけ日焼けをまぬがれていて白い跡を残していた。

「また来るよ。」

俺はそう言い残して店を出た。

【大野智編・おわり】

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