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雨のち曇り、時々晴れ【ARS】

第19章 闇【智】

深夜に帰宅してまっすぐアトリエに向かう。

作業中の作品の前に立つ。

しばらく作品をながめる。

絵が、動き始める。

脳が、しびれ始める。

俺は、闇に落ちていく。

息をするのも忘れ、体温を保つのも忘れ、俺はどんどん闇に落ちていく。

闇の世界はおもしろい。

時間も国籍も重力も思想も言語も視力も年齢も宇宙も音楽もモラルも犬も科学も色彩も時代も内臓も水も習慣も自由だ。

俺は闇の中で自由だ。

自由であることが自由だ。

闇をくぐり抜けた時、俺は目をあける。

ひとつ、息をつく。

体温を取り戻す。

朝の光がカーテンから差し込む。

コトリと静かに絵筆を置く。

俺はアトリエをあとにする。

【闇・智】

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