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桜並木を見おろして【ARS・O】

第10章 アトリエ

「もうちょっと左を向いて。そう、そのまま。」

大野さんは、こちらをじっと見つめながら、鉛筆を動かし出した。

その瞬間、大野さんの目の色は変わる。

鋭い鷹のように、深い海のように、大野さんの目の色は変わる。

あたりには、鉛筆の音だけが響く。

他には何も音はしない。
静寂に包まれる。

そんな大野さんの深い眼差しに、私の鼓動は高まる。

その鼓動が大野さんに聞こえないように、必死に呼吸を整える。

大野さんが、鉛筆を置いた。

「あんがと、今日はこれで終わりだよ。」

ここは、大野さんが勤める美術研究所の一室。
大野さんのアトリエだ。

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