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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第2章 友達でいたかった

夢を見た。
この街に引っ越してきてすぐの頃の夢。

『いい球投げるんだな。どこのチーム?』

転がってきたボールを投げ返すと、ばしっ、とグローブが音をたてた。ボールを受け止めたそいつは、僕が野球をしていることを前提で、話しかけてきた。
野球をしたことはないと答えると、目をまん丸にして、もったいねー、と言った。
両親が離婚し、母親の実家のあるこの街に引っ越してきたのは、10歳になったばかりの春だった。内向的な性格で消極的で、楽しいことなんてひとつもなかった。新しいクラスにはなかなかなじめず、友達のいなかった僕は、グラウンドを見渡せる河原で毎週末、少年野球の練習を見ていた。水辺にいると落ち着いた。

『おれ、西北ボーイズでキャッチャーやってんだ。良かったら見にこいよ。あ、いつも見てんだっけ?』

グラウンドを指差して『あっち』と言うと、仲間に呼ばれたそいつはびっくりするほど大きな声で、いまいくー!と言いながら走っていった。
吸い込まれそうな笑顔が、忘れられなかった。
その次の週、僕はまたあの河原で練習を見ていた。すると、僕に気付いたそいつが、大学生くらいの男を引っ張ってきた。みんなと同じ、ユニフォームを着ていた。

「なーなー、ショータ。こいつすんげー球投げるんだ。ピッチャーにしてよ。おれこいつとバッテリー組みたい。んで、イチコウ行って甲子園行きたい!」

ショータと呼ばれているその人が、どうやら監督らしかった。

「ヒロは先ず中学入れよ!気がはえーって!」

ついてきた全員が笑った。でも、ヒロと呼ばれたやつが、笑われたのは自分なのに、一番笑っていた。
その時、初めて僕はあんなふうになりたいと思った。「ヒロ」と友達になりたいと思った。

「なっ?おまえ、西北ボーイズに入るだろ?あんな球投げられて、この街にすんでて、甲子園目指さないなんてありえねーから!」

そう言うと、ヒロはもっと笑顔になった。気がつくと僕は、うなずいていた。

「おれ、甲斐広明。おまえは?」
「渡辺…塔也」

新しい名字には、まだ慣れていなかった。
だから、学校で渡辺くんと呼ばれてもすぐに反応できなかった。

「みんな!こいつ、塔也。今日から仲間に入ったから!」

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