ねがい*ごと
第5章 素直になれなくて
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」
運ばれてきた2つのホットコーヒー。
「優矢、元気そうね?」
「まあ、な」
「今日はもう仕事終わったの?」
「ああ。無理やり切り上げた」
「どうして?」
「久しぶりに元妻の顔が見たくなってさ」
「っ…よくそんな冗談言えるわね。
あなたには彼女がいるんでしょう?
私に会いにくるなんておかしい。それとも…喧嘩でもした?」
それを聞いた優矢の顔が歪んだ。
「あのな〜、何度でも言うが俺と遠藤美紀とは何もない!
同期だからしゃべる機会は多かったけど、
遠藤をそんな目で見たことは1度だってないし、それに、俺が好きなのはお前だけだっ」
「…えっ…」
「あ…いや、その」
優矢の意外な言葉に、私は拍子抜けしてしまった。
優矢は照れくさそうに頭を掻きながら目をそらした。
「や、やだ何言ってるのよ。やっぱり喧嘩したんだ彼女と」
私は心を落ち着かせようとコーヒーをすすったが、ドキドキしていた。
「亜沙美、ほんとだ。今でも俺はお前を大切に想ってるよ。だから、我慢できずに会いに来た」
「…」
別れた人はあの頃と同じ、
どこまでも暖かい目をしていた。