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ポシェット

第11章 星と体温


冷たい手のひらを君の左胸に押し付けて
びくりと震える姿を見ていた
同じリズムで送り出される血液を留めてみたい

何もいらない
でも少しだけ足りない

シートに残った体温が冷めないように
信号の度に左手を置いた

耳に吐息を吹きかけて
小さく夜が囁いた

寒さも一段厳しくなって
人恋しくなる季節だからさ
もう少し優しくしてほしかったよ
星がとても綺麗に見えるね
気配のない
夜が好きだよ

寄り添うような残り香が
狭い車内で微かに揺れて
排気と一緒に外に零れていった

ざらついたシートは
熱くもなく冷たくもない温度で
私の指をなぶっていく

そっと目元を拭った
秘密、だからね

たくさんの星が瞬いて
夢見心地でため息を吐いた

あの星をかき集めて
絨毯のように敷き詰めたら

君のとこまでたどり着けるかな?

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