
甘く、苦く
第55章 にのあい【俺だけのDisco Star】
「んっ…」
ひんやりとしたものが、
俺の額に触れた。
…気持ちい。
目を開けるのさえも
億劫で。
「…んー…」
ころんっと寝返りを打つと、
なにかにぶつかった。
「…雅紀…?」
目を開けると、
見慣れた背中。
意識が朦朧としているからなのか、
誰とかはっきり区別がつかなくて。
…雅紀なんだろうな、
なんて自己解釈して、
くっついてみた。
「ちょ。ニノ、」
…雅紀、だ。
「あっついあっつい!」
鬱陶しいほどに大きい声が
耳元でして、さすがに目を開けた。
さらさらの茶色い髪が
俺の頬を擽った。
「…ニノ、おはよ。
…つっても、もうこんな時間だけど。」
目覚まし時計を見ると、
もう午後六時。
…あー、寝た。
「…ニノ、もう熱ない?」
「熱…?」
「疲労だって。
病院行ったんだよ?」
「…そっ、か。」
そうだよ。
俺、倒れたんだ。
そこからだ。
記憶がまったくないのは
「なんか食べたいものある?
なんでも作るよ。」
「…いらない…」
汗で張り付いたシャツが
気持ち悪い。
でも…
それが今はなんだか心地いい。
「…やっぱ、好き」
雅紀が俺を引き寄せて
軽く触れるだけのキスをした。
ちゅっと音を立てて唇が離れて、
雅紀が俺を見つめる。
大きな瞳に俺が映る。
「ん、ぁ…」
雅紀の首筋に吸い付いて
紅い跡を残す。
「あーもうっ!
ここにつけたら服じゃ
隠れないじゃんかぁ…」
なんて、小言を言いながらも
雅紀を笑顔だ。
「……ね、シよ?」
雅紀から切り出すのは、
初めてだった。
「俺、決心ついたから。
やっぱ、好きな人とはシたい。」
照れながらくふふっと笑う。
…あー、もう具合が悪いとか、
どうでもいい。
ひとつに、なりたい。
