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仮想現実

第3章 。。。





アスファルトには、幾つもの赤黒いシミ。そして、そこに転がる複数の塊。それも元を辿れば人間だったようだ。


その中に比較的、綺麗に原形を留める塊が一つ。その背格好から言うと、十代にも満たない少年だろうか。


少年には両親と呼べるものが居ない。ある朝、家を出たっきり戻って来る事はなかった。噂では少年の家からそう遠くもない町が、空爆を受けたらしい。きっと、それに巻き込まれてしまったのだろう。


少年は、不思議とそれに涙はしなかった。少し心がチクリと痛んだだけ。生きて行く事に精一杯で、そんな余裕などなかっただけなのだろうか。それともそれが、この国では当たり前の事柄なだけだったのだろうか。


硬直した少年の手には、一枚のコインが握られていた。それは、ゴミも同然のガラクタの山から見つけ出した代物を売り捌き、ようやく手に入れた金だった。


数日ぶりに手にしたその金で少年は空腹を満たす為、露店へと向かている途中だったのだろう。まだ小さな掌に金をきつく握り締め、露店はすぐ目前まで迫っていた。


あと十歩。

あと六歩……。
 
突然、少年の耳を切り裂いたものは、聞き慣れた筈の銃声の音。誰かの声が悲鳴に変わった瞬間までは憶えている。


薄れ行く意識の中で、久方ぶりに少年の頬には熱い何かが伝っていた。それは哀しみの涙だったのだろうか。それとも安堵……。





―――塊となった少年の周りで、今日も無邪気な子供たちの笑い声が響き渡る。











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