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お寺の鐘~嵐音season2~

第28章 季節の変わり目に...

「あぁ。随分と寒くなったものだな。」

1人呟いてみたがその呟きは空に消えていった。

今日も俺は歩く。
いつもと同じ道を、貴方に会うために。

貴方に出会ったのはちょうど今日みたいな季節の変わり目。
秋と冬の境に出会った。

貴方は寒空の下、散りゆく木々をひたすらに真っ白なキャンバスに描いていた。
その横顔があまりにも儚くて、美しくて...







貴方と過ごすために何もかも捨ててきた。
貴方のいるこの場所は穢れを知らない。
だから不浄なものを持ち込んではいけない。
穢れのない素直な気持ちで会いに行かなければならない。
そうしないと、貴方は

消えてしまうから...





「智くん。会いに来たよ。」

「また俺の絵描いてよ。」

「俺の絵じゃなくっていい。
だから、早く目を覚ましてくれ...」






貴方は俺と出会って1年が経とうとした時
信号無視をしたトラックに撥ねられた。
俺の目の前で。

それから貴方は目を閉じた。
開けようとしなかった。

貴方に良くなって欲しいがために全て捨てた。
何も無い俺はまた歩く。
貴方がいる方を背にして...
二人で過ごしたあの家に向かって...。








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