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煩悩ラプソディ

第19章 原稿用紙でラブレター/AN






登校して席に着くなり、後ろから肩をトントンと叩かれて振り返る。


「なぁ雅紀、今日一限目って日本史だよな?」


挨拶もそこそこに眉をひそめながら話しかけてきたのは、親友の翔ちゃんで。


「おはよ。なに、どしたの?」

「あ、おはよ。
いやそれがさ、課題忘れちゃったんだよね〜…」


バツの悪そうな顔で机に項垂れる翔ちゃんを、半身振り返ったまま見つめる。


「もう俺三回目だからさぁ…
ぜってー絞られるよなぁ…」

「あ〜松潤だもんねぇ…」


はぁ〜と盛大な溜め息をつく翔ちゃんに心底気の毒な眼差しを送る。



日本史の松本潤先生は自他共に認めるドSな性分で。


出された課題を忘れようものなら、その何倍もの課題を再提出させるのが定番になっていて。


普段は人懐こい笑顔を見せるのに、一旦スイッチが入れば容赦なく奈落の底に突き落とすことから"鬼の松本"と恐れられている。


ただ、男の俺から見ても惚れそうな程のルックスなのに、そのSキャラが見え隠れして恋愛に関しては未だ連敗続きらしい。


"松潤"とは俺らだけの呼び方で、つい口を滑らせてそう呼んでしまった生徒に三時間も説教したとかしてないとか…。


「雅紀〜俺死にたくねぇよ〜」

「翔ちゃん…残念だけど今回は無理だと思う。
三回目はさすがに…」

「雅紀〜!」


後ろの席から泣きつかれてよしよしと頭を撫でていると、チャイムと同時にガラッと扉が開いた。


号令のあと、すぐに松潤が口を開く。


「はい、課題集めまーす」


翔ちゃんがしれっと後ろから回してきたプリントに自分のを重ねて前に回す。


なぜか俺も一緒になってドキドキして。


松潤の視界から逃れようと、翔ちゃんは気配を消すように俺の後ろで小さくなっていた。


「…櫻井」


ぽつり声がして、俺も翔ちゃんもぴくりと肩を動かす。


「櫻井、課題は?」


にこっと向けられた笑顔にぞくっと鳥肌が立った。
当の翔ちゃんは何も言えないみたいで、教室に沈黙が続く。


「そっか、三回目かー…。
分かってるな?櫻井、」


そう言った目の奥は全然笑ってなくて。
そーっと後ろを覗き見ると、目を見開いて固まる翔ちゃんが。


「あとで課題出すから、楽しみにしてろよ」

「…はい」


後ろから蚊の鳴くような声がした。


ドンマイ、翔ちゃん…

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