煩悩ラプソディ
第19章 原稿用紙でラブレター/AN
学ランの左胸に付けた白いコサージュを整えながら、体育館へと続く渡り廊下を歩く。
「雅紀っ!」
振り返って立ち止まると、走ってきた翔ちゃんが追いついて隣に並んだ。
「いやトイレめっちゃ混んでたわ」
「ふふ、間に合った?」
「ギリかな」
入試を無事に終えそれぞれの進路が決まり、俺たちは晴れてこの学校を卒業する。
まだ少しひんやりした空気の中、澄み渡る水色の空には薄雲がたなびいていて。
その柔らかな色合いの景色にあの人の笑顔を浮かべ、自然と笑みがこぼれた。
「…あ、そういえば今日の分のジュースまだだ」
「はぁ?もう終わっただろそれ!」
「え、卒業式までって言ったじゃん」
「っ、くっそ!たった一日早かっただけだろ!」
ムキになって反論する翔ちゃんを宥めつつ、笑顔を向ける。
あの日のことを思い出すと今でも緊張感が蘇ってくる。
放課後の図書室でにのちゃんへのラブレターを読んだ時の、あの胸の高鳴りは忘れられない。
一晩中かけて何度も書き直して書いた、俺のにのちゃんへの想い。
今思えばかなり恥ずかしいことを書いてるけど、それでもにのちゃんは最後まで黙って聴いてくれてたっけ。
そして、最後にまっすぐ見つめて
"好きです"
って伝えた時の、照れたようなにのちゃんの顔が最高に可愛くて。
想いを伝えたっていう達成感や高揚感を抑えられなくて、返事を待たずについ抱きしめちゃったんだ。
そしたらにのちゃんもぎゅっと抱きしめ返してくれて。
それがにのちゃんの答えなんだって嬉しくて、ただずっとそうやって抱きしめてたっけ。
「…お前なに笑ってんの?」
「ん?ふふ、なんでもなーい」
そう、それから翔ちゃんだって…
俺に一日遅れて松潤に告白した翔ちゃんは、見事に返り討ちにあったらしく。
というのも、松潤の方からのアプローチだったみたいで…。
「お、櫻井!」
生徒を誘導していた松潤が、俺たちを見つけて声をかけた。
「今日も可愛いな」
「っ、やめろよ!」
ニヤけ顔で頭を撫でる松潤に、赤い顔で抵抗する翔ちゃん。
…この二人、なかなかのお似合いだよな。
「ほら、式始まるぞ」
ポンと最後に頭を撫でた松潤に見送られ、赤い顔の翔ちゃんと体育館へ向かった。