煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
「そろそろ時間じゃない?準備しねぇと」
「…はい」
促されてようやく動き出すことができ、トンと教科書を揃えて立ち上がった。
そんな俺をじっと見つめる大野先生の視線に気付き、目を上げる。
「…あのさぁ、違ってたら悪いんだけどさ、」
「…?」
「相葉となんかあったの?」
「っ!」
急に出てきた『相葉くん』のワードに、心臓がぎゅっと掴まれたような感覚になって。
なおもこちらをじっと見つめる先生から目を逸らし、すぐに返答した。
「いえ、なにもありません。
…昨日も会いましたし」
努めて冷静にそう発してちらっと目を上げれば、未だこちらを見つめている先生と目が合う。
「…ふぅん」
そして顔色一つ変えずにそれだけ言うと、ふにゃっと頬が緩まって笑いかけられて。
「たまには遊びに来いって伝えてよ。
元担任が可愛がってやるって」
「…えぇ、わかりました」
その笑顔につられて口元を緩めると、先生が小さく『ぁ』と声を上げた。
「…笑った?今」
「え?」
「今笑ったろ?うわ~初めて見れた俺!」
目の前で子どもみたいに目を輝かせる先生に、ただ呆然とするしかなく。
…え、俺そんなに笑ってないの?
ひとしきり喜んで満足した様子の先生は『今日はいいことありそう』とか言いながら、ふふっと俺に笑いかけて職員室を出て行った。
丁度のタイミングで予鈴が鳴り、その音に押されるように続いて職員室を出る。
廊下を歩きながら、ふと窓に反射して映る自分の頬を撫でてみた。
俺…
相葉くんの前で、ちゃんと笑えてる?
相葉くんが思う俺で、居れてるのかな?
相葉くん…
こんな俺で、ほんとにいいの…?
ふと頭を過ぎってしまったその言葉が、思いのほか今の心境に追い打ちをかけてくる。
余計なことを考えてしまったと後悔しても、一度浮かんだ疑問は簡単には払拭できなくて。
自分がこんなにネガティブな人間だとは思わなかった。
いや、少なくとも相葉くんに出会うまではそんなことなかったはず。
こんなにも誰かのことを想って。
同時にどう想われてるのかなんて、今まではどうでも良かったことなのに。
あぁ、そっか…
こんなに…
俺の中は、相葉くんでいっぱいなんだ…