煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
「…あ!」
突然ソイツから指を差され、訳が分からずたじろぐ。
ずいっと俺の前に一歩を踏み出してきて、少し低い位置にあるその瞳が一瞬煌めいた。
「もしかして…アイバさん?」
「…そうだけど」
無駄にワクワクした眼差しでそう言われ、何で名前が知られているのか分からず更に身を引いた。
「…へぇ~」
品定めするようにじっと俺を見つめて、ヘラヘラした顔で感嘆の声を上げる。
初対面なのに、なんだコイツ…
さっきの大ちゃんへの態度も相まって、直感的にコイツを"嫌なヤツ"という部類に脳内で仕分けした。
「おい有岡、先輩に対して失礼だろうが。ちゃんと挨拶しろ」
不穏な俺に気付いた大ちゃんが、ソイツの頭をこつんと叩くと背中を押して促す。
「いてっ…ちぇ。あ、俺1年C組の有岡大貴です。
アイバ先輩のことは二宮せんせーから聞いてました」
にっこりと笑うその口から《二宮先生》というフレーズが出て、思わず反応する。
にのちゃんが、俺を…?
「最近よく来てますよね?
二宮せんせーとも仲良くしてるみたいだし…」
ちらっと上目でこちらを見た瞳が急に鋭くなったような気がして。
「…困るんですよねぇ、そんな頻繁に来られちゃうと」
「…は?」
「あんまり近付かないでくれません?
俺たちの二宮せんせーに」
挑むような視線を向けながら、ソイツがにじり寄ってくる。
俺たちの…二宮先生?
…コイツ、なに言ってんの?
未だ闘争心むき出しな瞳を向けてくるソイツに、どんな顔をしていいか分からず眉をしかめる。
「はいはい、お前はもう帰れ。
明日絶対レポート持ってこいよ」
「っ、ちょ、まだ話があるって!」
「うるせぇ、俺が相葉と話があんだよ。
ほら、帰った帰った」
「ちぇ…じゃ、野球部見に行ってこよっと。
じゃあまた、アイバ先輩」
大ちゃんとのやり取りを見つめていると、こちらに振り向いたソイツが無邪気に敬礼のポーズを俺に向けた。
一人楽しそうに廊下を歩いていく後ろ姿を、ぼんやりと見つめて。
「…なんなの、アイツ」
「…あいつぁただのバカだよ」
ポツリ呟くと、大ちゃんも呆れたようにそう返した。
…あんなのがにのちゃんのクラスにいんの?
にのちゃん…
大丈夫なの…!?