煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
その時、下腹部にぐっと何かが押し当てられて。
「やめっ、もっ…やめなさいっ…!!」
「ぐぁっ!」
次の瞬間には後頭部にガツンとした衝撃が走り。
一瞬で目の前に星が散った。
グラグラと揺れるゴンドラの中で、俺の頭もグラグラと回っていて。
何とか目を開けた視線の先には、赤い顔で肩で息をするにのちゃんのスニーカーの裏が。
窓に頭を預けるように凭れて、眉根を寄せて俺を睨むように見つめている。
え、待って…
俺…
にのちゃんに、蹴られた…!?
ようやくこの状況が飲み込めて、同時に現実にも引き戻された。
後頭部とお腹に鈍い痛みが残りつつも、目の前のにのちゃんの様子に急激に罪悪感が募りだして。
…っ、やばっ…!
「ごめっ…俺っ、」
「来ないでっ…!」
すぐに起き上がって擦り寄ろうとすると、にのちゃんから思いがけない言葉が発せられた。
「…ぇ、」
「待って…来ないで…」
未だ大きく呼吸を繰り返しながら、真っ赤な顔で唇をぎゅっと噛み締めている。
よく見ると片足のスニーカーは脱げ、ネルシャツは中途半端に捲られたまま。
そしてジーンズのベルトも外されて、ベルトの革がくったりと寛げられていた。
その姿に、一気に血の気が引くような感覚に陥る。
…なんてことをしてしまったんだろう。
にのちゃんの気持ちも無視して、自分勝手に強引に事を進めて。
こんなとこで先になんか進める訳ないのに、自分を抑えることがどうしてもできなくて。
最低なことした…
俺、なんて最低なヤツ…
にのちゃんに視線を向けると、投げ出していた片足を引き寄せて縮こまるように体を強張らせた。
「…ごめん。ほんとに…ごめんなさい、」
視線を遣るだけでそんな反応になるにのちゃんに、もう目を合わすことも出来ずに俯いてぽつり呟く。
すると、小さくはぁっと息が漏れて、引き寄せた膝を抱えて顔を伏せてしまった。
その小さくなった姿に堪らなくなったけど、近付くなと言われたことを思い出してぐっと思い留まる。
にのちゃん…
静まり返ったゴンドラ内は、さっきまでの熱気を帯びた空気は微塵も無くなっていて。
それから地上に着くまで、にのちゃんは膝を抱えたまま一度も顔を上げることはなかった。