煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
「え、ちょ!にのちゃんっ!」
一目散に駆け出したその姿に驚く間もなく、慌ててペダルに足を掛けて漕ぎだした。
車道を挟んで少し前を走るにのちゃんを捉え、立ち漕ぎながら形振り構わず叫ぶ。
「にのちゃんっ!待ってっ…話っ、しよっ!」
必死に前を向いて走るにのちゃんに投げかけるけど、車が往来する音に掻き消される。
「待ってっ…にのちゃんっ!」
全力で漕ぎながら追いかければ、自転車のスピードに勝てる筈のない足は段々失速しだして。
するとようやく諦めたのか、肩で大きく息をしながらゆっくり立ち止り。
両手を膝について呼吸を整えるように項垂れた。
「っ、そこで待っててよ!すぐ行くからっ!」
ぼんやり灯る街灯の下で小さくなっているにのちゃんに叫んで、丁度のタイミングで青に変わった横断歩道を駆け抜ける。
少し戻って辿り着き自転車から降りると、未だ肩を上下させて項垂れるにのちゃんに駆け寄った。
「だ、大丈夫…?」
そっと肩に触れながら問いかければ、ぴくっと体を揺らして静かに顔を上げて。
走ったせいもあってか頬を上気させて見上げられ、あの日以来見たにのちゃんの顔に心臓がきゅっとなる。
「あの…ご、ごめんね?
俺…ちゃんと、謝りたくて、」
「…」
見つめられてどきどきしながら、たどたどしく言葉を紡いでいると。
はぁっと息を一つ吐き、ずり下がっていたバッグを肩に掛け直しながら口を開いた。
「俺も…話さなきゃいけないこと…あるから、」
目を伏せてぽつり発したその言葉に、どきんと心臓が飛び跳ねる。
それってもしかして…
言い知れぬ不安が頭を過ぎり、体の奥から変な汗が滲み出てくる。
「そこの公園で…話そう?」
公園の方を見遣ってから窺うように俺を見上げるその瞳に、小さく『うん』と返事をするしか出来なくて。
ついに、この時がきちゃったんだ…。
会いたいと思っていた反面、にのちゃんの前でどんな顔をしたらいいかずっと悩んでいた。
会ってしまったら、どんな言葉を突きつけられるんだろうって。
俺いま、どんな顔してるんだろう。
…怖いけど、受け止めないと。
まず、ちゃんと謝らなきゃ…
見えないようにぎゅっと拳を握り締めて、見慣れた公園のベンチへと自転車を押して歩き出した。