煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
長かった梅雨からようやく抜け出し、青空の下で爽快に自転車を走らせる。
一人暮しに向けて動き出したにのちゃんは、俺の予想を遥かに超える勢いで家を即決して。
引越し手伝うから日取りを教えてって伝えてたのに、そんなに荷物はないからと断られてしまい。
そんなとこがにのちゃんの優しさなのかもしれないけど、頼られなくてちょっと寂しかったりもする。
だけど。
立ち寄ったコンビニで、迷うことなくお弁当コーナーへ向かう。
ざる蕎麦を二つ手に取り、にのちゃんの好きなコーヒーも添えて。
『相葉くんには、引越して一番のお客さんとして来てほしい』
なんて言われちゃったら、素直に従うしかないよね。
真新しい二階建てのアパートの下に自転車を停め、緊張しながら階段を上る。
ふぅっと息を一つ吐いてチャイムを押しても、全く応答がない。
…あれ?
部屋間違っちゃった…?
そう思い慌ててスマホを取り出した時、階段を駆け上がってくる音が聞こえて。
「っ、相葉くんっ!」
息を切らして駆け寄ってきたその手には、俺と同じビニール袋が。
「ごめん…これ、買い忘れちゃって…」
そう言って差し出してきた袋の中身を見て、思わず吹き出した。
こんな、たまに見せる天然っぽいところも。
子どもみたいに拗ねたり、気持ちを押し込めたりするところも。
全部、受け止めてあげる。
同じように差し出した袋をにのちゃんが覗き見て、小さく"ぁ"と呟く。
「…こんなに食べれないね」
「うん…ふふ、」
そして、部屋の前でぎこちなく鍵を開ける姿にも自然と顔が綻んでしまい。
ようやくドアが開いたと思ったら、すぐににのちゃんが中に滑り込む。
「待っててっ、」
振り向き様にそう告げられたのも束の間、カチャっと開いたドアからにのちゃんの小さな声が届いた。
完全攻略への道は、まだまだ険しいけど。
心の鍵を開ける手掛かりは、見つけられたから。
それはきっと、俺にしか開けられないんだ。
だって…
「…いらっしゃい、相葉くん」
なんてったって。
あの仏頂面を、こんなに煌めく笑顔にできた俺だから。
「…おじゃまします、にのちゃん」
…これからもずっと。
ずっと一緒に、笑ってようね。
end