煩悩ラプソディ
第29章 消費期限は本日中/AN
ローテーブルに所狭しと並べられた料理に、思わず感嘆の声を上げる。
そのどれもが俺の好きな物ばかりで、美味しそうに湯気を纏っていて。
「あとこれあっためたら終わりだから。
相葉くん座ってて」
そう言って、キッチンへ戻るにのちゃんの後ろ姿を目で追う。
てゆうか…
にのちゃんが俺の為に料理作ってくれたなんて…
こんなに嬉しいことってある?
それに、あのエプロン。
さっきドアを開けた時エプロン姿のにのちゃんが目の前に現れて、一瞬時が止まってしまった。
いつも着てる大きめのパーカーの袖を捲って、真新しいベージュのシンプルなエプロンをつけたにのちゃん。
その可愛らしい姿に、たちまち胸がときめいた。
にのちゃんの貴重なエプロン姿を見れただけでも最高なのに、目の前にはこんなに美味しそうな料理もあって。
なんかさ…
俺たち新婚さんみたいじゃん。
ほんとに今日は、今までの人生の中で一番の誕生日になりそう。
「…相葉くん、これどっか置けそう?」
キッチンからの声に我に返ると、両手にスープの器を持ったにのちゃんから呼び掛けられて。
机上に少しスペースを作って返事をすれば、慎重に器を持ってこちらへ歩いてくるにのちゃん。
集中してるのか口が小さく尖ってて、それがやたら可愛く見えてしまい思わず笑みが溢れる。
すると俺の反応に『ん?』と不思議そうな顔をした後、ハッとしてもぞもぞとエプロンを脱ぎ始めて。
あれっ?
「えっ、脱ぐの?」
「えっ…いや、これがおかしいのかと思って…」
赤い顔でそう言いながら首からするりとエプロンが抜かれた。
あーあ…
もうちょっと見たかったなぁ。
なんて言ったら、真っ赤になって『いやです!』とか言われそう。
にのちゃんのエプロン姿を惜しみつつ、それよりも目の前に広がる料理に空腹も限界にきてて。
「ねぇ食べていい…?」
「あ、うん。食べよっか」
「いただきまーす!」
両手をパチンと合わせてにのちゃんを見れば、少し照れ臭そうに笑って小さく頷いた。