煩悩ラプソディ
第29章 消費期限は本日中/AN
扉の向こうで微かに聞こえるシャワーの音に、段々と緊張が高まってくる。
ワンルームでしかも大して広くはないこの部屋。
寝室なんてあるはずもなく。
ソファの上に正座をして、対面に置いてあるベッドをじっと眺める。
さっき…
相葉くんに俺の覚悟を伝えると、急にソファに押し倒されたからびっくりして。
一瞬で頭の中にあの遊園地のことが蘇ってきて、慌てて相葉くんの胸を押し返した。
今日は…そうゆうんじゃなくて。
ちゃんと、相葉くんと向き合って…
一緒に進めていきたいから。
でも…
いざとなると、こんなに緊張するもんなんだ。
じっとしてても煩く鳴る心臓が、さっきから正常な呼吸をさせてくれない。
大丈夫かな…俺。
…ううん、だめだ。
考えちゃだめ。
もうここまで来たら…
やるしかないもん。
相葉くんと…
やっと、ひとつに…なれるんだから。
カチャと静かにリビングのドアが開いて顔を上げれば、相葉くんが遠慮がちに中に入ってきた。
持ってる中でも大きめのスウェットとパーカーを貸したから、相葉くんには丁度良く着こなされていて。
その姿を見るだけで、また動悸が治まらなくなる。
「あ…先、ありがと。
にのちゃんも…どうぞ、」
「っ、はい…」
たどたどしく発せられた言葉の端々に、緊張が見え隠れして伝わってくる。
そんな相葉くんの顔を見ることが出来ず、小さく返事をしてそそくさと浴室へ向かった。
***
熱いシャワーを体に浴びながら、毎夜密かにやっていたようにボディソープを指先に纏い。
いよいよその時が来たんだと思うと…
この指が相葉くんの指に代わるんだと思うと…
はぁっと深呼吸して、慎重に後ろの蕾へと指を進める。
実は、松本先生にはもう一つ言い渡されていたことがある。
それは…
男同士が交わるには、相当な準備が要るということ。
だから出来るなら慣らしていたほうがいいと言われて、今日まで少しずつ準備をしてきたんだ。
はじめは怖くて仕方なかったけど、相葉くんがこの事を知ったらどう思うだろうって悩んだけど。
…でも。
相葉くんに…
身を委ねる準備を、ちゃんとしておきたかったから。
…ねぇ、相葉くん。
こんな俺のこと…
受け入れてくれる…?